2020/05/19日本経済新聞『「貯蓄から投資」最後の挑戦』より
オピニオン面Deep Insightのコーナーに、コロナ危機の経済対策として日銀が保有するETFを国民に配るべき-京大:川北教授の提言があるといいます。 日銀が金融緩和の一環で購入してきたETF残高は約30兆円を超えており、これを政府が時価で買い上げ、国民に移転したらどうかという提言です。 少々乱暴な案という気もしないではないですが、真の狙いは「貯蓄から投資へのシフトを今こそ促す」ことにあるようです。コロナショック前の株式市場が堅調な時期には、この「貯蓄から投資へ」の推進運動は盛んでした。 企業は稼ぐ力が回復し、株主還元にも積極的で、「日本株は長期投資に適した資産」となった。これを機に投資教育を行って個人資産1900兆円の一部でも株式に向かえば、所得が増加して個人消費につながる・・・という証券業界からの「投資家育成運動」が盛り上がってきた最中、2月高値からの株価急落でこの機運が一気に影を潜めてしまいました。 しかし、このコロナ禍に伴う経済環境の激変で人生設計が完全に狂ってしまう人は多く、預貯金や年金だけに頼った個人の今後の人生設計・計画的な老後資金準備をせざるを得ない現状が再認識されました。 さらに企業も資金調達の大切さを認識しています。
最近では大企業も社債発行枠の設定も発表され、今後は増資なども予定されてくる
でしょう。 さらに「貯蓄から投資へ」運動も掛け声倒れに終わってきた歴史の繰り返しであり、経済や家計も大きく傷ついた今こそ失敗に終わるわけにはいかず、過去の失敗例を学んで生かすべきであると言っています。 戦後の日本は1947年GHQや政府と証券業界が組んで「証券民主化運動」を始めたのですが、財閥解体後、旧財閥が保有する株式を国民に分売、歌手による投資啓発の講演会も全国で開催、銀座三越では日立製作所をはじめ当時の成長企業のIR(投資家向け説明会)も開かれていたようです。
こうした活動の結果、日本株のうち個人が保有する比率は45年の53%から49年には69%に大幅アップ、しかしこの気運もここまで。49年以降の株価急落で個人は株を手放してしまい、以後株離れは止まらなくなります。 この時の教訓は2つだとあり、 ①デフレは厳禁:そもそもデフレ経済の下では株式よりも現金が最強。 ②大衆ファーストの徹底:証券会社や企業が個人投資家を軽視した行動(要するに信頼を裏切って来たいつものパターンなわけです・・・)が相次ぎ、個人投資家にとっての株式という資産が長期的な資産形成には魅力がない資産になってしまいました。
この2つの教訓は、今でこそ生かされるべきであると言っています。 脱デフレを掲げる「アベノミクス」の時間の針を戻さぬため、政府は「何としてもデフレを回避する」と明確にしなければなりません。個人投資家ファーストも同じで、企業は配当・成長といった何としても投資していただく資産の成長ストーリーを示すことが大切です。 戦後の証券民営化の支持者で日銀総裁:一万田尚登氏は、「株や社債の発行と健全な消化ができないと、日本の復興はない」と言っていたようです。この根底には「個人は長期のお金があれば、株や社債を買いなさい。経営者は投資家のことを考え、真面目な経営をすべし。証券会社は投資した大衆に損をさせるようなことはしてはいけない」という想いがあった上での言葉です。
またまた同じ歴史の繰り返しにならないよう、このコロナ禍の苦境でこそ市場の進化(真価)が試されると終わっていました。
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