2019/10/17日本経済新聞 『債務不履行リスク19兆ドル』より
昨日は世界通貨基金(IMF)の世界経済見通し(WEO)をご紹介しましたが、同じく半期に一度の「国際金融安定性報告書」も、金融面でのリスクを定点観測する上で、抑えておきたいと思います。本報告書では「世界的な金融緩和が金融システムのもろさを助長している」として、利下げは景気を下支えする反面、投資マネーを刺激して過大なリスクを取らせてしまう。さらに企業の借金や新興国の外貨債務が膨み続けることから、将来のマネーの逆回転は深刻な経済混乱つながる可能性があると警戒を促す内容になっています。
報告書の副題は「Lower for Longer(より低く、より長く)」とあることからも、目下の市場での低金利状態が長引くことを前提とした債務膨張リスクを分析しています。グローバルで長期金利はこの半年間で大きく低下。米中の貿易摩擦でリスクを意識した中で国債を買う動きが強まり、米国FRBを始め各国中央銀行に利下げが連鎖反応、市場金利の低下が加速されてきました。この結果、金利がマイナスの国債は15兆ドル(約1600兆円)とも推計され、2020年頃までは、先進国の国債の2割以上がマイナス金利状態が続くと市場では見込まれています。
IMFは「利下げによって、景気の下振れリスクを抑えた点には評価していますが、未だ「経済成長や金融安定等の中期的なリスクは下に傾いている」とも指摘しています。さらに3大リスクとして、①企業の債務の膨張、②投資マネーの高リスク資産への流入、③新興国の債務の海外への依存度の高まりを挙げています。世界的な経済不安定の中で、企業の収益環境は悪化しているにも関わらず、低金利が長引き企業がお金を借り易い状態は続いており、格付けが低い企業ですら、破格の金利と身の丈を超える額の借り入れが可能になっています。IMF推計では、日本含む主要8か国で債務不履行リスクのある企業債務は21年に19兆ドルとして、社債発行残高の4割程度に達する恐れもあると指摘されています。この状態を助長するのが、機関投資家の投資行動だともあり、利回りが見込める国債が消滅する中で、少しでも利回りを稼ごうと、リスクの高い資産への投資を積極化しています。シングルB未満の低格付け企業に投資するファンドや未公開株等の新しいリスク資産(=代替資産)への投資を増やす年金基金も増えて来ているようです。新興国リスクも蓄積しつつあり、ドル建て対外債務はふくらみ続け、この数年アフリカ・アジアの途上国でも対外債務が急増しているとあります。19年の米利下げで米ドルの金利負担は抑えられていますが、その分逆に新興国の対外債務への依存度が再加速してしまっていると懸念しています。
こうしたアンバランスが蓄積すると、その反動も大きくなるとして、「次の景気後退を増幅させる金融不均衡に歯止めをかけるべく、対応が必要」と、規制当局が企業債務や投資家のリスク管理の監視を強め、新興国政府も債務管理を厳格化すべきと、対応強化を指摘しています。G20会議でも、この金融緩和の効果と反動に対する議論がされると思いますが、各国の経済状態や金融政策スタンスによって対応策や対応余地に格差が出ることは間違いないでしょう。ただ現在のグローバル経済の底流にある「三大リスク」として、認識すべき大切な要因かと思っています。
IMFの「世界経済見通し」につきましては ⇒ こちら
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