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企業債務膨張の「宴の後」を考える…

2019/09/22日本経済新聞 『「債務の宴」 静かな異変』より

債務の宴に異変が訪れているとあり、債務リスクの象徴として「そろそろ危ない」と言われて久しい『低格付け企業向け融資(レバレッジドローン)』から資金を引き上げる投資家が増えているとあります。主に米国企業で利用されるこの融資はCLO(ローン担保証券)という複雑な金融商品に姿を変えて、日本を始め世界中の投資家にバラまかれています。この構図こそ2008年の金融危機に似た状態と言われる所以です。米国では7月以降、数社のレバレッジドローンの新規実行が中止となったようです。


この融資は格付けが投機的(ダブルB以下)の企業が対象であり、消費財やテクノロジー系企業が多く利用しています。審査の基準自体が緩くなっているため、社債を発行できない中小企業でも資金調達が可能である一方、その分金利が高くなっています。それ故に低金利状態が続く中、少しでも利回りを求める投資家のマネーを引き付けてきました。新規融資は17年に6200億ドル弱と、金融危機前ピークの2007年(5138億ドル)を超え、18年も5280億ドルになっています。


しかし19年4-6月期には新規融資は約900億ドルと、前年同期比で半減しており、同様の融資に投資するファンドからは18年10月以降に380億ドルの資金が流出したとされています。これは貸し倒れリスクが急激に警戒されてきているためで、「景気減速で企業が債務の負担に耐えられなくなると、大量のデフォルトが発生しかねない」との、米銀トップによる発言もあります。


さらに昨今の利回り低下は貸し倒れのリスクと釣り合いにくくなっているという声もあります。このタイプのローンの流通利回りの指標は約5.8%で、18年末比で1%程度低下しており、変動金利のため、金融緩和により利回り低下の影響を受けています。


そして「質の劣化」も深刻化しており、最近の新規融資の8割程度を借り手企業に条件が甘い「コベナンツ・ライト」と呼ぶタイプが占めています。借り手企業の財務状況が悪くなった時に、即座に返済を求める財務制限条項が緩くなっています。


レバレッジローンは「CLO」という証券化された金融商品に姿を変え、世界中に拡散されています。金融危機時に諸悪の根源とされたサブプライム住宅ローンの証券化商品と同様、トランシェ(階層化)という手法を使い、沢山の債権を一つに混ぜた上、複数の商品に小分けにし個々の商品にしてしまいます。この時に債権全体から生じる元利支払いを受ける優先順位に差をつけ、最優先の「シニア層」の商品にはトリプルAといった高い格付けが付けられてピカピカの商品に作り変えられてしまいます。しかし、貸し倒れがある程度増えてしまうと、このシニア層の商品にも損失が及ぶこともあります。


日本の金融機関でも農林中央金庫が約8兆円、三菱UFGが2.6兆円、郵貯銀行も1.3兆円ほどのCLOの保有があるとされ、この辺りの構図も10年前の金融危機時と同様です。

世界の企業は長らく続いた好景気と金融緩和による低金利状況において、異常とも言えるほど債務を拡大させて来ています。


このようなリスクに麻痺した状況が続いていた中で、高リスクであるレバレッジドローンからは、ひっそりと静かにマネーが遠のき始めているこの動きに、異常にまで膨張した企業債務への警戒感が少しづつ強まっているというちょっと気を付けたいトピックスでした。

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