2019/09/10 日本経済新聞 『それでも指標はROE』より
自己資本利益率(ROE)8%超を目標に掲げる2014年夏の経済産業省の通称「伊藤リポート」から丸5年。この指標の注目度は高まり、ROEの高い低いで株価に大きく差が出るようになってきています。最近多く目にするようになった政策保有株の持ち合い解消も、ROEが低い企業への資本効率を高める動きの一つとして考えられそうです。相次いで発表される持ち合い株(政策保有株)の削減は、株価に素直に反映されています。
リクルート株の売り出しを発表した凸版印刷・大日本印刷などROEが低い企業では株価が上昇。こうした企業群は老舗企業で利益額は大きくても、過去の蓄積である自己資本も厚くて資金効率が悪いため、利益を大きく伸ばすか自己資本を圧縮しない限り、ROEが高まりません。過去5年の株価もROEが低い企業ほど低迷しているとあります。
ROEを高める経営に遅れた企業が、今回のような持ち合い株売却で得た資金を新規事業や株主還元に充てればROEの向上につながり、こうした動きは日本株全体の再評価になると期待が込められています。記事では東証株価指数500銘柄を対象に過去10年の投資リターンを検証したものが紹介されており、実績ROEの高低で2グループに分け、それぞれの予想ROEの上位10%の銘柄を買い持ち、下位10%の銘柄をショート(売り)とした場合、高いROEグループが2倍のリターンとなった一方、低いROEグループは3割のマイナスという結果でした。
またこの資本の効率を見るROEと割安度を測るPBR(株価純資産倍率)はほぼ比例関係が見られ、これでもROEが8%を境に傾きが高い角度に変化する傾向が知られています。「ROEが高い企業への人気は19年に入ってからも顕著だ」という日系証券のコメントもあり、利益水準が高い高ROE企業は、厳しい経営環境下でも安定した業績を出しやすいとされています。
最近の東証株価指数500銘柄のROEは約9%強まで高まって来ているばかりではなく、ROEとESG(環境・社会・企業統治)を組み合わせたROESGという指標も注目され、企業経営の持続性も問われるようになっています。
とにかくROEを高めることに主眼が置かれた5年前の伊藤レポート公表時を過ぎ、今後はROEを底上げし高水準をキープする継続的な努力と、昨今の環境や社会への配慮、経営者の暴走防止など企業経営の透明化等を合わせ持った企業経営こそが、市場・投資家から評価を受ける大切な要素となりそうです。
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