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執筆者の写真RYUICHI MOTOHASHI

「貯蓄から投資へ」に万能の議論なし


2020/10/10日本経済新聞『貯蓄から投資は万能か』より 従来から預貯金比率が高い家計の金融資産を株式などの証券投資へ誘導しようという

「貯蓄から投資へ」が言われて久しいのですが、なかなかその流れは変わらず、20年6月末では家計金融資産1883兆円のうち、約54.7%の1031兆円が現金・預金のままとなっているようです。 この「貯蓄から投資へ」運動を一歩引いてみてみると、個々の家計ベースでは一律で考えることが出来ない課題もありそうだとあります。 まず第一、家計にはそれぞれ固有の異なる状況があり、「なぜ貯蓄から投資への行動に移せないのか?」という観点から考えるのは難しいという点。 日本の株式市場の姿は、2019年12月末を終点とする過去5年、10年、20年の日経平均の年間騰落率は、5年で6.27%、10年で8.41%、20年で1.12%であったようです。期間ごとの株価が年間で上がった年、下がった年の回数では、5年では上昇4回/下落1回、10年では上昇7回/下落3回、20年では上昇12回/下落8回となるようです。 長期間ではある程度の投資収益率が期待できる株式投資は言え、1-2年などの短期間では予想外の損失の可能性も出てきます。株式などのリスク資産での投資は有力な選択肢ではあるにせよ、リスクを許容できることが前提条件であるとも言っています。


若い世代では投資期間の長さを武器にリスクに対応でき、逆に資金を取り崩すシニア世代では過大なリスクテイクは取り返しがつかない結果にもなりかねません。 さらに富裕層なら不意の損失にも耐えられるものの、一般的な高齢者世帯ではリスク投資のハードルは高いともあり、国債・国内債券系投信など低リスク資産や預貯金比率が高いことはそれなりに合理的な行動とも言えそうです。

第二に、「貯蓄から投資へ」が進むと、その資金が企業に回り経済活性化に資するというのは議論は危ういとあります。株式市場での株式投資は、投資家Aが市場で流通する株式の買い注文を出し、約定(成約)すると、買い手である投資家Aの購入代金は売り手である投資家Bに支払われて売買取引は完結します。ですから資金の流れはある投資家から別の投資家に資金が移るだけで、株式を発行している企業の資金繰りとは無関係ですね (ただし企業による株式の売り出し、公募増資および新規株式公開(IPO)は、企業は新たに投資マネーを手にすることは出来ます) この記事はいろいろ各方面で「貯蓄から投資へ」が議論されるけれども、本質と現実を直視して議論されるべきだと終わっていました。 経済活性化のために企業を投資行動で応援するためには、投資家同志が自由に売買できる場としての株式市場の存在が欠かせませんし、いろいろな投資尺度や投資観も重要でしょう。 皆が長期投資こそ株式投資だと言って、誰も売る人がいなかったら売買が成立できません。やはり市場でも投資家でも、万能な「貯蓄から投資へ」というのはなく、それぞれの「貯蓄から投資へ」があるのだと思います。

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