2019/08/02 日本経済新聞『異形の金融再緩和(上)』より
米国FRBによる10年半ぶりの政策金利0.25%引き下げは、リーマンショック前の金融政策正常化への回帰が道半ばで頓挫したことを意味します。この10年での大量の緩和マネーは実態経済に向かわず、どこに行ってしまったのか?この観点から論じられたトピックでした。
「先行きの不透明感からくる下振れリスクに備える」として行われた利下げは、リ―マンショック直後の2008年12月以来。現在の米国は景気拡大局面が過去最長の11年目に入り、トランプ大統領からは利下げプレッシャー、2%台という非常に低い金利水準での金融政策転換と、今回の「金融再緩和」は異例さが際立っています。
まさに金融緩和の状態から十分に抜け出せないまま、改めて利下げをせざるを得なくなっているという状況です。
08年のリーマン危機後の量的緩和では、金融機関に対する資金供給を最大約5倍とし、空前の対応策でした。米日欧英中といった主要中央銀行の資産規模も07年末から19/6までで3.4倍に膨張。一方で世界のGDPは09年からの10年間で1.4倍の伸びにとどまっています。経済のデジタル化やグローバル化によって先進国経済の経済構造が変化、工場や大量の労働者を抱える製造業から、データや頭脳を駆使するデジタル産業に構造が変化してきたからだとあります。金利が下がって資金が調達しやすくなっても、設備投資等の大きく資金が必要となる投資が伸びにくくなり、この結果、大量の資金は行き場を求めて高リスクの資産市場に流入してきました。09/2からの19/6までの世界の株式時価総額は約2.9倍に膨らんでいます。低金利をテコに官民の債務も膨張しています。
政府の債務は新興国で07/3比で約3倍、折に触れ話題となる米国企業の債務残高も15兆ドル(1600兆円程度)と過去最大で、資金が向うのは企業の設備投資ではなく、M&Aや借入に依存した自社株買いなど金融取引。財務内容がイマイチの信用力が低い企業も簡単に借金が出来る状況のため、債務の「質」も急速に悪化しています。
米国では、企業と政府両方の債務が膨張し、過去にないほど「金利」に神経質な状況となっています。
金融緩和と低金利の継続が、必ずしも経済刺激につながるとは言い切れないケースもあります。行き過ぎた低金利は金融機関の収益力が高まらなくなり、融資をしようという動機が働かず、巡り巡って金融システムに悪影響となります。
マネーの膨張がバブルの火種となり、過度の金利低下が金融システムをじわじわと弱体化させてしまう。。。金融政策だけでの経済テコ入れには限界があるのは明らかです。
今回の米国での「金融再緩和」も、貿易摩擦の早期解消や経済成長率の底上げなど、根本的な経済活動の活性化とセットで始めて、期待通りの効果が期待できるのではないでしょうか
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